認知言語学の基本概念

スキーマと固定観念

人間が世界の様々な事象に対し、完璧な価値中立を保つことは難しい。それは思想や信念といった意識的な原因だけでなく、概念を理解するスキーマ(schema)のメカニズムによるところがある。

人はある具体的事象に触れた時、そこから抽象的な共通性を取り出し、その認知的集合体であるスキーマを抽出する。スキーマはスロット(slot)と呼ばれるいくつかの要素で形成されており、スロットに入りうる値を変数(variable)、値が決まっていない時に暫定的に使用されるプロトタイプ的な値をデフォルト値(default value)と呼ぶ。

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認知言語学とスキーマ

人間が概念を形成していくメカニズムについては、古くから研究が行われていた。そこには、デカルトの合理主義(rationalism)に代表される。人は概念を先天的に有して生まれてくると考える生得説と、ロックの経験主義(empiricism)に代表される、概念は後天的に獲得していくと考える経験説に大きく分けることができる。

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捉え方レベルの概念メタファー

メタファー(metaphor)は類似性に基づく比喩であり、2つの概念の共通性からスキーマを形成する。メタファーは様々な言語表現で観察されるが、事象の対応関係は特に概念メタファー(conceptual metaphors)と呼ばれる。

例を使って議論しよう。経営の世界では、しばしば「戦略」という言葉が使われる。「ブルーオーシャン戦略」や「ポジショニング戦略」など、経営の方略を策定するために用いられる概念だ。

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シネクドキ(提喩)とは何か

シネクドキ(synecdoche: 提喩)とは、包括関係に基づく比喩である。上下のイメージ・スキーマを利用し、上位概念と下位概念の相互作用を用いた言語表現だ。

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メトニミー(換喩)とは何か

メトニミー(metonymy: 換喩)とは、隣接性(contiguity)に基づく比喩表現である。認知主体はある事象に対し、隣接性のある他の事象を参照点(reference point)とし、そこから対象事象に到達する。

ここでは「鍋を食べる」を例に考えてみよう。「鍋を食べる」と言っても、私たちが食べるのは容器としての土鍋ではなく、中で煮えている具材である。しかし、「鍋を食べる」が成り立つのは、鍋の具材に対し隣接性のある容器としての「鍋」を参照点とすることで、鍋料理を「鍋」とメトニミー的に表現しているからである。

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メタファー(隠喩)とは何か

メタファー(metaphor: 隠喩)とは、類似性に基づく比喩表現である。ある具体的な事象と、認知上の共通点を見いだせる別の事象を比較し、2つの共通性からスキーマを形成する。

「月見うどん」を例にとって考えてみよう。月見うどんはうどんに生卵がトッピングされた料理であり、天体としての月がうどん内に入っているわけでも、月を見ながら食べる習慣があるわけでもない。

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認知言語学と比喩

比喩と聞けば、多くの人は文学作品に出てくるようなレトリックのことを思い浮かべるだろう。これまでの言語学ては、比喩は「言葉のあや」とされ、修辞学などの限られた範囲で扱われるマイナーな存在にすぎなかった。しかし、認知言語学では比喩は人間の思考そのものであり、我々の言語表現に欠かせない基本原理と捉えられている。

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プロトタイプ効果と理想化認知モデル

認知言語学のカテゴリー観では、典型的成員であるプロトタイプの存在を認め、プロトタイプに一致しないがカテゴリーに属する周辺的事例を段階的に設けている。このような段階性によって、我々がそのカテゴリー「らしさ」を判断できることをプロトタイプ効果(prototype effects)と呼ぶ。

例えば、「鳥」という概念のプロトタイプはスズメやカラスなどの「羽とクチバシがあり、空を飛ぶ生き物」だろう。スズメはまさしく「鳥」の概念にピタリ合う生き物だが、ペンギンは「鳥らしさ」に欠ける周辺的事例である。

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プロトタイプとステレオタイプ

プロトタイプ(prototype)とは、モノづくりの現場では「試作品」を指す言葉だが、認知言語学では「カテゴリーを代表する典型的な成員」という意味で使われる。

例として「鳥」という概念を考えてみよう。鳥といって我々がすぐに思い浮かぶのが、カラスやスズメのような羽が生えて空を飛ぶ生き物である。「鳥」という言葉で反射的にペンギンを思い浮かべる人は少ないだろう。

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家族的類似性とカテゴリー

認知言語学におけるカテゴリー観では、成員すべてが共通の特徴を持っている必要はない。カテゴリーには典型的な成員であるプロトタイプが存在し、プロトタイプとの距離感で成員の濃度が段階的に決まる。

ここで、共通の特徴なしにカテゴリー所属の判断がどのように決まるのか、という疑問が湧くかもしれない。それを考える1つのヒントに、Wittgensteinが考える家族的類似性(family resemblance)がある。

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