多義構造の例と特徴

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多義構造は語句によって異なる背景を持つ。ここでは英語のいくつかの単語を例にとって、多義性の基本構造を考えていきたい。

1. メタファーによる多義構造

メタファー(metaphor)は、類似性に基づく比喩表現である。メタファーによる多義性として、谷口(2006)ではcircleの例を挙げている。

ciecleのスキーマは「(幾何学的な図形としての)円」であり、プロトタイプ的な意味は「円形のもの」である。そこから「仲間」、「周期」などの派生的な意味が使われる。

ここで、複数人の「仲間」は円のような形で会話し、「周期」は円のようにはじめから終わりまでが規則的に続くものである。これらの類似性が抽出された結果、circleが多義的に使われていると解釈できる。

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2. イメージ・スキーマ変換による多義構造

イメージ・スキーマ(image schema)とは、図式で表される抽象的な知識構造を指す。イメージ・スキーマの変化による多義構造を、英語の前置詞overから確認しよう。

まず、overのプロトタイプ的な意味は「何かの上部を越えていく」だ。

  • John jumped over the fence. (ジョンはフェンスを飛び越えた)

image-schema-transformation.001

ここで、終点経路のみに焦点が合わさることで、「〜の向こう側」の意味を持つようになる。

  • John lives over the hill. (ジョンは丘の向こう側に住んでいる)

image-schema-transformation.002

また、経路の途中地点に焦点を置くことで、「〜の上」を示すこともできる。

  • There is a plane over the mountain. (飛行機がその山の上にいる)

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overは経路の別の部分に注目することで、他にも多義的な構造を作り出している。

3. 集合体モデルによる多義構造

Lakoff (1987)は、ある語句に対する理想化された概念(理想化認知モデル)の集合体がプロトタイプ的な意味を作る、集合体モデル(cluster model)を提案した。例えば、motherという語句には、次のような理想化された世界があると考えられる。

  • a. 出産のモデル: 子を出産した人がmotherである
  • b. 遺伝モデル: 遺伝子の半分を提供した女性がmotherである
  • c. 養育のモデル: 子を養育する大人の女性がmotherである
  • d. 結婚のモデル: 父親の妻がmotherである
  • e. 家系のモデル: 一番近い女の先祖がmotherである

出典: 松本(2003: 146)

これら集合体モデルの一部が派生することで、多義的な意味が放射状カテゴリー(radical category)として浮かび上がる。例えば、aの出産モデルであればsurrogate mother(代理母)、dの結婚モデルであればstepmother(継母)などだ。さらに、the mother of something(〜の母)のような表現も、理想化認知モデルの一部が基礎になっていると考えられる。

以上、多義構造はネットワーク・モデルを中心に、その背景には何かしらの認知構造が存在する。すべての多義語が上記3つのモデルに当てはまるわけではないく、他の観点からの分析も可能だろう。

多義性の知識は言語習得にも大いに貢献する。辞書的な意味を単に暗記するのではなく、その背景を知ることで、対象言語のスキーマ・ネットワーク形成に役立てることができる。

 

// 参考文献

谷口一美. (2006). 認知言語学. ひつじ書房.

松本曜. (2003). 認知意味論 シリーズ認知言語学入門 (第 3 巻).

Lako, G. (1987). Women, fire, and dangerous things. U-niversity of Chicago Press, Chicago.

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