文法化とは何か

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言語は実際の使用の中で、長い年月を経て意味や形を変えていく。様々な変化の種類がある中でも、とりわけ内容語が機能語としての用法を帯びることを文法化(grammaticalization)という。

文法化では、動詞や名詞などの主要範疇(open class)の語句が、助動詞・前置詞などの非主要範疇(closed class)に変化することが多い。ここには比喩や主観化などの認知的メカニズムが介在するため、認知言語学的視点からの研究が活発だ。

まずは文法化が確認される語句の例を見てみよう。

  • 助動詞: can, may, must, will, have to (動詞句から文法化)
  • 前置詞: concerning, regarding (動詞句から文法化)
  • 接続詞: providing (動詞句から文法化)
  • 前置詞: in spite of (名詞句から文法化)
  • 数量詞句: a lot of (名詞句から文法化)

例えば、in spite ofのspiteは、名詞では「悪意」の意味で使われることが多い。それが文法化の結果、inとofを伴う形で前置詞として用いられるようになった。

文法化の主要な現象をまとめよう。

  • 脱範疇化(decategorization): 名詞や動詞の範疇から、文法的な範疇に変化すること。in spite ofのspiteや、whileなど。
  • 重層化(layering): 新しい文法機能が追加された際、前の文法機能が失われず残ること。not否定とno否定など。
  • 漂白化(bleaching): 文法化した意味が、元の意味より内容的に抽象的で希薄になること。
  • 音韻的縮約(phonological reduction): be going to がgonnaになるなど、音の縮約が生じること。
  • 再範疇化(recategorization): 品詞が変化し、形態素のタイプも変化し、音形は短縮され、意味は元の意味の漂白化(bleacing)が起こること。

また、文法化は突如として起こるものではない。そこには段階性が確認される。Hopper and Traugott (2003)が示した、be going toの例を見てみよう。

  • a. She is going [to visit Bill]. 目的は未来に実現するだろう、という語用論的推論
  • b. She [is going to] visit Bill. 未来時を表すと再分析される
  • c. She [is going to] like Bill. 助動詞として文法化が確立
  • d. She [gonna] like Bill. 音韻的縮約

aでは、目的句の意味から未来の出来事への推論が働いている。これを語用論的推論(pragmatic inference)と言い、文法化の第一歩となる。bではbe going toの統語的な範疇に変化が加わる再分析が起こる。

cでは状態を表す動詞likeが使われ、be going toが必ずしも動作を伴う必要がないことから、助動詞としての用法が容認される。そして、dのgonnaのような音韻的縮約によって、be going toが助動詞的な用法として確立したことが示されている。

このように、文法化は名詞⇒前置詞のように、単方向的(unidirectional)な特徴が見られる。中にはto up the ante (掛け金を上げる)のように副詞が動詞化するような逆パターンもあるが、数としては少なく例外的だ。

文法化の研究は外国語習得に大いに応用することができるだろう。例えば、concerningやregardingなど一見前置詞に見えない語句が、前置詞的に使われる理由をわかりやすく説明できれば、暗記に頼る学習を減らすことができるかもしれない。

 

// 参考文献

Hopper, P. J., & Traugott, E. C. (2003). Grammaticalization. Cambridge University Press.

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