類像性と意味

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ソシュールは、記号と音は恣意的に結びついていると考えた。例えば、treeは「木」を表すが、これがtreeと呼ばれなくてはならない理由はない。仮に「木」をtableと表現していたら、それがそのまま定着した可能性がある。

しかし、言語表現のすべてが恣意的に決定されているとは限らない。文法は恣意的でない要素が多く、語彙さえも表記と指示対象の関連性が見られる場合がある。このように、形式と意味には何らかの関連性があることを類像性(iconicity)と言う。

Haspelmath (2008)は、類像性には次の7種類があると考える。

  • a. 量の類像性: 意味・情報の量が多いほど表現の量は多くなる
  • b. 複雑さの類像性: 情報が複雑なほど表現形式も複雑になる
  • d. 結束: 表現間の言語的隔たりは概念的隔たりに対応する
  • e. 線的順序: 出来事が生起する順序と言語表現の配列が同じになること
  • f. 隣接性: 意味のつながりの強い要素同士は隣接する
  • g. 繰り返し: 言語表現の繰り返しの使用は意味を強さを表す
  • h. 社会的距離: 社会的距離はメッセージの長さに反映される

(Haspelmath, 2008; 森 and 高橋, 2013)

類像性をより端的に表すなら、そこには有縁性と同型性を見出すことができる。

有縁性(motivation)とは、言語主体の経験が言語構造に直接的に反映されることを指す。ここには、出来事の順番と言語表現の順番が同一になる連続性や、記号レベルの距離と意味の距離に相関関係が見られる遠近性が認められる。

遠近性の例を見てみよう。次の3つの文章では、happyに対する否定の度合いに注目したい。

  1. I think he is unhappy.
  2. I think he is not happy.
  3. I don’t think he is happy.

接尾辞unを使った文章1が、最もhappyを強く否定している。次に、happyの直前にnotを使う文章2、最も否定が弱いのがnotが離れた位置にある文章3である。記号が離れるに従って、意味が弱くなっていっていることが確認できる。

同型性(isomorphism)とは、形式と意味の間に密接な相関関係があることを指す。「形式が同じであれば意味も同じである」の理論的背景になる考え方である。

語彙レベルと構文レベルの2つの例を見てみよう。動詞consultは「(医者に)診てもらう」と「辞書で調べる」の意味がある。そこには「〜から情報を引き出す」のスキーマ的な意味が存在するため、一見バラバラに見える2つの意味が、1つの形式で運用されている。

構文レベルでは仮定法と過去形の例が有名だ。いわゆる仮定法では、動詞の時制を1つ前に戻すことで表現する。

  • I talked to her yesterday. (過去形)
  • If I were you, I would work harder. (仮定法現在)

これらは異なる文法用語が使われる別の概念と思われがちだが、共通して時制の操作が使われるのには、話者の「距離感」が反映されているからだ。つまり、動詞の時制を1つ前に戻すことで、時間的な距離感を表すのが過去形、現実との距離感を表すのが仮定法である。

類像性の研究は、外国語習得に応用できるポテンシャルを秘めている。これまでの指導では、語彙も文法も恣意的なものとして取り扱われてきたきらいがある。そこで文法の成立過程や背景を指導できれば、学習者の理解度に大きく貢献できるだろう。

 

// 参考文献

森雄一, & 高橋英光. (2013). 認知言語学 基礎から最前線へ.

Haspelmath, M. (2008). Frequency vs. iconicity in explaining grammatical asymmetries. Cognitive linguistics, 19(1), 1-33.

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