イメージ・スキーマと言語分析

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私たちが世界の様々な事象と接する際、その1つ1つのすべてを単一の物事として知覚しているわけではない。ある状況と別の状況が論理的に関連していないように見えても、無意識のうちにそれらの共通性を見出すことで、同じ言語表現を使って表すことができる。

このような知覚を紐解く手がかりの1つに、イメージ・スキーマ(image schema)がある。単純化して言えば、イメージ・スキーマは図式で表される抽象的な知識構造だ。私たちが物事に接することで直接的に抽出される、認知的能力と言ってもいいだろう。

例を見てみよう。「上」と「下」という2つの概念を、イメージ・スキーマを使って表現する。

image schema.001 image schema.002

「上」と「下」は相対的な概念である。「上」を定義するためには「下」が存在せねばならず、「下」もまた「上」の存在が必要だ。

このとき、第一の焦点をトラジェクター(trajector: tr)、第二の焦点をランドマーク(landmark: lm)と呼ぶ。「上」の例なら、「上」を意味する楕円がトラジェクター、その参照点となる四角形がランドマークだ。

これは図と地の分化で使用したFigure(図)とGround(地)に近い概念に見える。しかし、イメージ・スキーマは言語使用者の体験を二次元的な図形に変換して表現している都合上、ラネカーはトラジェクター・ランドマークという用語を用いている。

さて、イメージ・スキーマは言語分析に役立てることができる。よく用いられる例が英語の前置詞であり、ここでは前置詞inについて考えてみよう。

image schema.003

前置詞inは空間のイメージ・スキーマで表現できる。

ランドマークとなるのは箱(box)のような物理的空間であり、その中にトラジェクターとなるモノが内包されるイメージだ。トラジェクターは空間内のどこに存在してもinの概念が成立する。これは探査領域(search domain)と呼ばれ、イメージ・スキーマの中では斜線で表されている。

前置詞inを使った2つの表現を見てみよう。

  1. a coin in the purse
  2. a student in the classroom

1つ目はトラジェクターにa coin、ランドマークにthe purseを使った例だ。the purseの中を空間と見立て、a coinを内包している様子が伺える。2つ目の例も同様に、トラジェクターをa student、ランドマークをthe classroomとした上で、trを内包するlmを表現している。

このように、背景にある共通の認識を抽出することで、異なる対象物を扱うケースに同じ記号が使用できる理由が明らかになる。前置詞inで言えば、単に用法を暗記したり、「〜の中で」という日本語訳で学ぶより、inの本質が見えてくることは間違いない。

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