認知言語学とスキーマ

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人間が概念を形成していくメカニズムについては、古くから研究が行われていた。そこには、デカルトの合理主義(rationalism)に代表される。人は概念を先天的に有して生まれてくると考える生得説と、ロックの経験主義(empiricism)に代表される、概念は後天的に獲得していくと考える経験説に大きく分けることができる。

言語習得に関しては、長らくチョムスキーの生成文法(generative grammar)が思想の中心であった。

チョムスキーによれば、人はあらゆる言語活動を司る普遍文法(universal grammar)を持った状態で生まれる。言語習得とは、普遍文法を言語獲得装置(language acquisition device: LAD)によって対象言語にチューニングしていく作業である。それゆえ、小さな子どもが特別な教育を受けずとも、家庭環境の中で母国語を習得できる、と考える。

しかしながら、近年の研究の中で、チョムスキー的な生得説に基づく言語観には多くの批判が寄せられている。人が普遍文法によって先天的に概念を獲得しているなら、概念形成とは、例えばキムチ鍋を見た時、それに「キムチ鍋」と名称をラベリングしていくだけの作業となってしまう。

そこで、心理学などの知見を得ながら認知言語学が想定するのは、ボトムアップ式の概念形成観である。私たちは日々、世界の様々な具体的事象に触れる。具体的事象は姿形こそ違えど、何かしたの共通点を見出すことができる。その抽象化された共通点を抽出し、スキーマ(schema)を形成する。

スキーマに当てはまる事象の束はカテゴリー(category)を形成し、その最も典型的な事象をプロトタイプ(prototype)と呼ぶ。プロトタイプではなくても、そのスキーマを共有するものは周辺的事例として、カテゴリーの一員に認められる。

このようなスキーマの関係性を、ラネカーは次の図で表した。

カテゴリー化出典: 李 (2010: P66)より筆者作成

カテゴリーの成員は必ずスキーマを共有している。例えば、「名詞」は「可算名詞」や「不可算名詞」のスキーマであり、「可算名詞」は「可算名詞の単数形」と「可算名詞の複数形」のスキーマと言える。スキーマには階層性が見られるため、「名詞」は「可算名詞の単数形」と「可算名詞の複数形」のスキーマでもある。

スキーマは動的な概念であり、私たちが具体的事例に日々接することでアップデートが行われる。これまで「扇風機」と言えば羽があるものと捉えていても、ダイソンの羽なし扇風機を見れば、羽がなくても風を送る機能があれば扇風機と認識できるだろう。スキーマは動的(dynamic)であり、拡張・変更を常に伴うのだ。

 

// 参考文書

李在鎬. (2010). 認知言語学への誘い: 意味と文法の世界. 開拓社.

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