用法基盤モデルと文法のネットワーク性

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認知言語学の中でも、いわゆる「文法」に関心を持つものが認知文法だ。認知文法は従来の生成文法と大きく異なる文法観を持ち、それを理論的に支えるのが用法基盤モデル(usage-based model)である。

用法基盤モデルにおいて、文法は記号の集合体と考える。我々は普段の言語使用において、抽象度が低い記号を使用することが圧倒的だ。そこで、具体的な言語表現からボトムアップ的に言語の構造を考えるのが、用法基盤モデル最大の特徴である。

例を見てみよう。動詞giveから次のような表現が見られるとする。

  1. give me your coat
  2. give me a ride

これらが繰り返し使用されると、それが徐々に抽象化し、give me NPという構文スキーマが抽出される。

この構文スキーマにはgiveを使った他の表現、例えばgive him somethingやgive you a cakeなどが容認されることで、give NP NPというさらに抽象度の低いスキーマとして確立する。スキーマは事例の増減とともに変容することから、言語は動的(dynamic)な存在と考えることができる。

用法基盤モデルは、「文法は自立した抽象的な規則の集合体」と考える生成文法とは真逆のアプローチを取る。生成文法が複雑な事象を分解して一般化を試みる還元主義的アプローチとすれば、認知文法はありのままの言語表現を理解する非還元的アプローチだ。

さて、用法基盤モデルでは、言語に関わる知識はネットワーク構造を成していると考える。次の図のように、ネットワークはカテゴリー化の関係が元となり、異なるスキーマ同士が相互に結合している状態だ。

network

(出典: Langacker, 2008)

言語がネットワーク構造を成しているなら、言語習得は対象言語の膨大なネットワークを構築していく作業と捉えられる(Tomasello, 2000)。

これは、我々日本人が英語のペーパーテストは得意でも、実際の英会話で自己紹介すらできない原因の1つを説明できる。

つまり、言語が抽象度の低い表現を主体としてネットワーク構造を成しているのなら、抽象度が最も高い構文スキーマのみを「文法規則」と称して暗記しても、ネットワークそのものはまったく構築されないのである。

 

// 参考文献

Langacker, R. W. (2008). Cognitive grammar: A basic introduction. Oxford University Press.

Tomasello, M. (2000). First steps toward a usage-based theory of language acquisition. Cognitive linguistics, 11(1/2), 61-82.

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